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The EVIDENCE 2024 JPSTF(日本版USPSTF)研究を向原先生・森先生・宮崎先生にインタビューしてみた!

The EVIDENCE 2024として採択された、JPSTF研究。The EVIDENCE 2023のLVC研究に続く、医療分野の研究になります。社会保障費の適正化に貢献しうる、DSTが推進する新たな研究をリードする3人の研究者にお話を伺ってきました。(聞き手:高嶋 和代、記録:田﨑 一崇)

そういった部分に焦点を当てたいという思いが一つあります。逆に、本来であればメリットがデメリットを上回る項目があるにも関わらず、実施されていないものも存在します。そういった利益と不利益のバランスが予防医療において重要です。現在は、予防医療が社会規範のようになっていて、「みんなで受けましょう」といった空気があり、そこに「まさか不利益があるかもしれない」ということは、患者さんだけでなく、医療者側もあまり意識していない部分があるのかもしれません。

(向原)私たちのプロジェクトでは、日本の自治体で実施されている検診項目について、エビデンスの観点からその有効性を検証し、具体的な推奨を作成することを目的としています。作成された推奨は、自治体での検診項目の見直しや新規項目の導入の検討に活用していただければと考えています。また、受診間隔や対象年齢といったものの検討にも役立つものになるかと思っています。

(森)今回のプロジェクトでは、住民や行政の皆さんに根拠に基づく予防医療の指針を提示することを一つの目標としていますが、行政の方と連携し健診/検診システムの改善を進めていくことももう一つの大きな目標です。これまで既存の制度や運用の中で、優先度が低い、やらなくていいことをやったり、逆に必要な健診/検診がやりづらい、選択できないこともあったでしょう。行政の方と連携し、協議しながらシステム自体を改善することができれば、住民の皆さんにとって大きなメリットが出てくるのではないかと期待しています。

(向原)今回、自治体の皆様と連携して取り組んでいきたいという強い思いがある中で、比較的自治体の裁量が大きい項目を一つの選択基準としました。事前の調査インタビューの結果、各自治体で実施されている検診項目の中から、特に重点的に取り組むべきだと考えた「骨粗鬆症」と「無症候性の頚動脈狭窄症」の2項目を選定しました。

例えば、骨粗鬆症の検診は久留米市でも実施されていますが、これは健康増進法に基づいて規定されています。この法律は2000年代前半から施行されており、検診対象者は40歳から70歳までの女性で、5年ごとに受診することが記載されています。法的な根拠があるため、全ての自治体で実施されているかと思われがちですが、実際にはそうでもありません。骨粗鬆症の検診は自治体の裁量が大きく、実施の有無や対象者の選定も自治体ごとに異なります。そういった意味で改善の余地があり、エビデンスが揃えば、社会実装につなげやすいのではないかという観点から、骨粗鬆症検診を選びました。

また、「無症候性の頚動脈狭窄症」についてですが、超音波による検診が一時期かなり流行し、十数年前に多く実施された時期があったと記憶しています。目的としては、脳梗塞のリスクを早期に特定し、予防することだと思いますが、無症状の人に対して実施することについては様々な議論がありました。また、この検診には法的根拠がなく、人間ドックや脳ドックのオプションとして行われることが多いのですが、一部の自治体では公費が使われていることがわかりました。それが本当に妥当なのか、という疑問もあります。

さらに、私たちが参考にしているUSPSTF(米国予防医療専門委員会)では、現状ではこの検診は推奨されていません。それを考えると、公費を投入する必要がないのではという仮説を持っています。そのため、この検診を選定することにしました。

(宮崎)これまで学会などで「これが駄目だ」「あれが駄目だ」と言ってきましたが、あまり広がりを見せなかった部分の反省もあります。どこに手をつければ全体がうまく回るかを考え、今回はあえて小さなトピックを選んでいます。逆に言うと、もっとインパクトのあるトピックもありますが、それらは影響が大きすぎるため、最初に取り組むにはハードルが高いと感じています。現場の立場としては、「これは意味がないからやめてくれ」と言いたいし、これまでそう主張してきたのですが、実際にはそう簡単ではないんですよね。いろんな人の思いが絡んでいて、法律も関係している。上から指示が降りてくるわけですから、地方の行政の方々も「国から指示されているからやらなければならない」と言わざるを得ません。現場から「なぜこんなことをやっているんだ」と言われても、「これはルールだから」としか言いようがない、という状況です。

(向原)そうですね。今回の研究から、さらに大きなうねりが生まれ、将来的に法律にまで影響を与えるような話になれば嬉しいです。少し話がずれるかもしれませんが、米国にUSPSTFというモデルがあります。独立した第三者機関としてエビデンスに基づいた推奨を作成し、公開しています。日本では、そうした独立した評価機関が予防医療に関してはあまり存在しないのが現状です。もちろん、学会が策定するガイドラインはありますが、完全な独立性が担保されていないため、これまであまりうまく機能してこなかったというのが私の私見です。多くの人たちが、日本版USPSTFのような独立機関が必要だと考えてきましたが、国レベルでの研究費や成果が十分に社会実装に結びつかなかったのは、独立性の欠如が大きな要因だったのではないかと考えています。