過去2回の連載で好評をいただいている研究者インタビューシリーズ。
第3弾となる今回は、DST設立当初から推進してきたThe EVIDENCE 2022の1つ、男性育休推進の実証研究を進めている東京大学大学院経済学研究科教授の山口慎太郎先生にお話を伺ってきました。
皆さまの会社では、どれくらいの男性社員が男性育休を取得していますか?
男性育休取得が広がると、日本の未来はどう変わるのでしょうか?
さあ、インタビュースタートです!(聞き手:DST事務局 高嶋 和代、撮影:DST事務局 山内 可南子)
データを触るのが好きなんです(笑)スマートウォッチのログを見て、きょうのランニングのタイムや心拍数の変化はこんな風になっているんだっていうのを知るだけで楽しい。体重も、朝起きて測って、それがWi-Fiでサーバーに転送されるわけですね。睡眠時間は何時間かとか、どれだけ熟睡できたかとか、データを取ること自体楽しいです。
ーー今回はそんな、データ大好き山口先生にお話をお伺いします(笑)宜しくお願い致します!先生はいつからデータに興味を持ち始めたんですか?
大学生になってすぐですね。当時パソコンが高かったので、休みの日に大学に行ってマクロ経済統計などのデータを見て、エクセルでグラフを作ったりして遊んで休みを過ごす位好きでした。
元々はビジネス方面のシンクタンクに行きたいと思っていて、当時珍しかったインターンに参加していました。そのうち、シンクタンクよりもアカデミアの方が深みのある研究が出来るなと気付き、今に至っています。
ーー山口先生が今ご専門にされているのが経済学、主な研究トピックに子育て支援や少子化対策の実証分析、また企業のワークライフバランスや女性活躍なども取り組んでらっしゃいますね。
もともと労働経済学を研究していましたが、カナダに渡って5、6年後にテニュア(教員の終身雇用資格)を取得しました。そうすると他人からの評価を気にし過ぎることなく、自分の好きな研究ができるようになったんです。それまでは競争の中で成果を出して、皆に成果を認めてもらう必要があった。しかしテニュアを取得したことで自分の身分が安定したので、やりたいことをやろうと思ったのです。そうなったときに、それまではアメリカやカナダのデータを使って分析をしていたのですが、自分の労働経済専門の中で、日本について何ができるかなと思ったとき、特徴的な日本の労働市場に取り組みたいと考えました。それは「女性の活躍のしていなさ」。男女格差がすごく大きい。私が博士号とった2006年なので少し昔の話にはなりますが、当時北米に住んでいて、たまに日本に帰ってくるとやはり極端に日米は違うなと思いました。大きな会議だと男性しかいない。それは別にアカデミアに限った話ではなく、インダストリーに行っても同じ。しかし、人口の半分は女性です。半分の労働資源が未活用というのはものすごくもったいない。女性という未活用の人的資源が使われるようになると、日本は経済成長するのではないか。一番伸びしろとして大きいのが女性の活躍だと思ったのが出発点です。
ーー山口先生の研究にはそのような背景があったんですね。
最初に女性の育休の研究をしました。育休を充実して取れるようになったら、女性活躍が促進されるのではないか。育休の分析から入ったのですが、当時既に日本の育休制度自体はそこそこ整っていました。ですので、あまり育休って改善の余地がないんだなと感じました。育休が1年あることは意味があるのですが、それを更に3年にしても女性の活躍は広がらないということが分かったのです。一方で、当時は待機児童が社会問題化していたので、保育の分析を始めました。最初は女性が働きやすくする政策を立案するという目的で取り組みましたが、進めていくうちに、最大の当事者は「子ども」だということに気がついて、子どもの発達についての分析をするようになりました。そこから子ども・子育て支援全般について研究をするようになりました。
そんな中、日本で少子化対策や女性活躍の観点からみて、これ以上どんな政策改善の余地があるんだろうと考えたんです。育休は結構充実しているので取り組む余地はない。保育も10年、15年前に大事だとみなされて、保育を拡大することによって女性の就業も大きく進みました。さらに子どもの発達にプラスだということが分かってきたので、政府も保育の枠を増やしていきました。もうひとつ大きい理由として、少子化が起こってしまったために、保育園に入りやすくなってきたということもあります。異次元の少子化対策というのを、2023年の1月に政府が示しました。保育はそれまでの研究で大事だという話があったので取り組んできたものの、日本の場合はもうこれ以上充実させる余地がないということが分かってきました。もちろん保育は大事だし、もっと充実させた方がいいのは間違いないのですが、少子化対策という観点で考えたときには改善の余地は小さいだろうと。
育休も保育も一区切りついている中で、大きな改善余地があるのが「男性育休」だったんですね。データでは、男性が家事をする、育児をすることと出生率とはすごく強い結びつきがあるということが示されています。これは日本国内で見ても、国際的に見てもそうです。国際的なデータで見ると、男性が育児に時間を費やしている国ほど出生率が高いという相関関係があります。日本のデータで見ても、第1子が生まれた後に、育児時間を長く取っている男性ほど第2子以降が生まれやすいということが分かっています。必ずしも因果関係とはいえないのですが、出生にも繋がっている可能性がある。男性が育児をすることで女性の負担が減って女性がフルタイムで働くことができたり、役職がある責任の重いポジションに女性が就いて活躍する余地が出てくる、ということが考えられています。
そうした理由で男性育休はすごく重視しています。男性の育児を増やしていくのに、育休というのはすごく大事な出発点になるということがこれまでの研究でわかっています。海外でも育休取得率は高いのですが、取得期間が1ヶ月や2ヶ月です。どの国でも女性みたいに1年というような長い育休は男性を取らない。男性は育児の気分だけ味わっていると叱られてしまうことがよくありますが、意味がないのかというと全然そんなことはないんです。カナダでは6週間の育休を男性が取ると、育休が終わってから3年後に、実は家事育児時間が2割くらい伸びているというデータがあります。
経済学の研究の話だけでなく、脳科学の観点からも研究されていて、この秘密を解く鍵は、オキシトシンという脳内ホルモンにありました。愛情ホルモンとよく言われ、子どもを可愛いと感じるというような作用をします。女性は出産や授乳に伴って、自然に脳の中に分泌される。そういう意味では女性である母親は、ある意味生物的に多くの女性は自然と子どもを可愛いと思い、育児にも時間をかける、というのが分かっています。ところが男性はどんなに育児に熱心な人でも当然出産しないし授乳もしないわけです。しかし研究でわかったのが、男性もスキンシップをしたり、抱っこしたり、オムツを替えてあげたり、そういった簡単なことをしてもオキシトシンが出てくる。つまり可愛いという風に感じるようになるんですね。だから、男性にとっても育休はすごく大事なんです。
ーーしっかり科学的根拠あっての男性育休の推進なんですね。
最初は責任感とか義務感とかやらされてもいいんです。育休を取り子育てをすれば、子どもの可愛さが理解できるようになり、可愛く感じられるようになるということが科学的にわかっているんです。可愛くなれば、もっと育児をするし、もっと育児をすれば更に可愛くなるという風にすごくポジティブなサイクルが回り始める。結果、3年後も、家事育児に時間を多く費やすということが分かったんです。結果的に子どもの発達にもプラスになるし、夫婦仲も良くなる。協力して子育てをしているということです。妻のワンオペで夫が家事育児しないという恨み節がよくあったりしますが、最低限そこは避けられますし、妻もフルタイムで働くことが増えたりするので、結構家族にとってプラスの効果が大きいんです。育休は男の人にとっては短くて、1ヶ月ぐらいでなんの意味があるのと言われるのですが、実は人生を変えるぐらいのインパクトがあるのです。
ーー子どもを預けられるところができたからといって、すぐに女性活躍が進むわけではないという現状があるんですね。
保育園は使えるけれど、女性だけに家事や育児をさせていると早く帰らなければならないので、時短勤務を選ばざるを得なかったりしますよね。時短勤務だと、管理職は難しいという話になってしまうんです。残業はしなくてもいいけれどフルタイム勤務はしてもらわないと、というのは企業から最低限出される要望です。
ーー女性の賃金と男性の賃金はまだ離れています。差を縮めていく上でも、やはり女性の労働力を活用しなければならないと感じますし、最近多くの女性から「私も経済を回して社会の役に立ちたい」という話を聞きます。
これから本当に労働力不足が深刻になっていく中で、主に三つの労働力の源泉の解決策があります。
一つは高齢者に引退しないで働き続けてもらうという選択肢です。
東京大学の近藤絢子先生の研究によると、高齢者の再雇用で若い人の雇用が減るわけではないことがわかりました。役割が違うので影響を受けていないのです。重要なポジションについた人がずっと引退しないで居座ってしまうというのは問題ですが、高齢者には若い人と違う役割をあてているので、案外、高齢者の活用は大きな副作用も出さずにうまく行っているようです。
もう一つは移民です。移民はやっぱり難しい。たとえばドイツでは移民の受け入れをすすめましたが、結局社会的にかなり大きな軋轢を起こしてしまっています。価値観があまりに違うんです。西洋的価値観と移民の出身国の価値観が強くぶつかってしまうことがあります。やはり、地域住民と移民の間で緊張関係が出てしまうことは避けがたい。それを乗り越えていくべきだという議論は成り立つと思いますが、実現には大きな困難が伴う。また、20〜30年前の日本は「移民は皆日本に来たがっている」「自分たちが選ぶ立場にある」という前提でしたが、ご存知の通り今は、相対的に日本の魅力は落ちている。この辺の認識が変わっていない世代の人もいますが、現実には移民の方から見たときに日本は圧倒的に魅力的というわけではなくなっている。
もっとも有力な解決策は女性の活躍です。もちろん働きたい働きたくないという個人レベルの自由が尊重されていいとは思うのですが、これまでは働きたいのに働けないという部分が非常に大きかった。そういう意味では個人の幸せを達成する上での役にも立つし、同時に労働力不足の解決にも繋がるのであれば、一石二鳥だと思います。
ーー女性の労働力が上がると、日本の経済はこれくらい上がる、などのデータはあるのですか?
例えば出生率が1.26から1.8の先進国トップクラスに上がったとしたら、少子高齢化の問題、特に労働力不足の問題が解決するかというと、全然解決しないという試算結果が出ています。人口問題に関しては20年30年先というのは、ほぼ確実に予測が立ちます。その上で試算すると、女性がフルタイム・正規就業になり、男女の活躍度合いに差がないという状況にまで持っていくことができれば、財政的な問題も相当緩和できるということが分かっています。
ーー女性がしっかり活躍していく方がいいという文脈の中で、年収の壁という問題もありますね。制度が変われば何か状況が変わるのではないかという話が出ていますが、山口先生はどのように思われますか?
年収の壁も女性の就業についてマイナスになっています。壁を超えないように働くのが賢いかのような規範が世の中にできてしまっています。短期的な1年2年の話ではなくて、壁を越えてフルタイムで働くようになると、経験やスキルの蓄積が起こるんですね。壁を越えないで10年ずっと働いてもキャリアアップは難しいのですが、フルタイムで働いて責任も取れるということになると仕事の内容も変わってきます。そうした仕事を10年やると、着実にキャリアアップに繋がっていきます。
ーーそういった制度を変えていくにしても、エビデンスがやはり必要だということを今回DSTで私も一緒に勉強させていただきながら感じているところです。
それはおっしゃる通りです。どうしたらいいかというのは、色々な可能性があるわけです。問題の解決策に対していろんな解決策が提案されるけれど、どれを本当にやっていいのかは決めかねる部分がある。エビデンスというのは絶対的な基準ではないのですが、1つの基準にはなり得る。例えば、少子化対策として児童手当があまり効かないというのは、それこそエビデンスがある話なんです。それにもかかわらず、1兆円以上かけるのは少子化対策としては、あんまり得策だと思えない。
どういう政策がいいのかは必ずしも分かるわけではないかもしれないけれど、どういう政策がよくない政策なのかについては分かっていることがあります。あえて効果がないとわかっているところに踏み込んでいくのは、政治的・財政的なリソースの無駄遣いをしていることになります。エビデンスというのは色々あり得る政策の中から、本当に有効なものの候補を絞るのに役立ちます。効かないとわかっているものについては候補から外し、良い政策について考えていけばよい。そのための指針になるかなと思います。
ーーさてそんな中、山口先生が取り組んで下さっている男性育休の研究についてです。
今回の取り組みでは、ファザーリングジャパンと連携し、男性育休の研修をしていただくのですが、その研修によってどれくらい実際の男性育休の取得率や取得意向、働き方が変わってくるのかについて非常に大きな関心があります。育休研修というと、大体育休を取る30代の男性がターゲットになるというイメージが強いかと思います。もちろんそれもあるんですが、ファザーリングジャパンの取り組みの非常に面白くかつ効果的になっていると思われるポイントとして、イクボス研修があげられます。ボスに対して、部下が育児できるようにする、育休を受けられるようにすることの会社にとっての重要性をうまく説明してくださっています。期待している結果としては、研修を受けていただくことで、まず当事者である30代の男性、父親になる人たちは有意義に育休期間を過ごせるための準備をしてもらうこと。そして、ボスたちにも自分の部下が育休を取ることに対してポジティブに考えていただきたい。
一方で、研修というものは一般的には、効果があるかというと難しいところもあるんですね。例えば、ダイバーシティ研修は世界中でやられています。ダイバーシティ研修をやると、「よしわかった」と、知識は身につくけれど、行動が変わらなかったということがあります。なかなか大人の行動を変えるって難しい。そういう意味では、今回の男性育休の研修も、ネガティブなシナリオとしては、理屈はわかったけれど何も変わらないということがあり得ます。本当に研修で変わるということが確認できるかどうかは実はそんなに簡単な話ではなく、ぜひ検証してみたいところです。
ーー男性が育休をして女性が働きやすくなるというのが今回の研究の一つの要素だと思いますが、今回の研究によって男性が育休を取ることに対する壁を一つ一つ超えていけたらいいですね。
そうですね。おそらく当事者、父親になる人たちに障壁はないんです。今回まだアンケートの結果は詳しくは上がっていないんですが、若い方、つまり当事者はほとんどが育休を取りたいと思っているとみています。もちろん人によって取りたい期間が長かったり短かったりはありますが、全く取りたくない、興味ないと言っている人はかなりレアです。
一方で、実際に育休を取れていない理由としては「同僚や上司に気兼ねする」という部分がありますね。これからは周りの方が理解していくことがすごく大事になると思います。その上で、ボスの果たす役割というのは非常に大きいので、今回のイクボス研修によって具体的に上司がチームや職場の雰囲気を変えることで育休の取得率が変わる、行動が変わるという方向に行ってくれると良いなと思っています。我々の仮説だと、何か行動を変えてほしいときに本人に問題があると考えて、色んな仕掛けを用意しがちなんですが、実は本人ではなく周りの方が問題なんだということがよくあると考えます。行動を変えていく上で、当事者が変わる部分ももちろん多少はあるのかもしれないけれど、真のターゲットというのは周りということがわかっていくと、皆が生きやすい、ダイバーシティとインクルージョンを持つような社会にしていくための重要な学びがあるのかなと思っています。
ーーDSTには企業、特に経営者の皆さんが多いので、どうすれば企業としてのパフォーマンスを下げず、本人の働く意欲も下げず、周りの士気も下げずに、生産性を上げられるのか、とても興味があると思います。
男性育休の為にはこれまでの働き方を変えなければいけないので、短期的には単にコストに見えてしまうのかもしれません。ただ、社員が抜けても回る仕事の進め方はうまくいっている会社であればいくらでもあるわけで、方法としてはあるが、そこを自分たちで変えて実施するのは面倒だ、という感覚はどうしてもあるんでしょう。だからある意味、コストに見えているんです。確かにそういう側面はあるかもしれませんが、世の中人手不足で、優秀な若い人をどう自社に引き込むかハードルが上がっています。もちろん、給料を上げるという方法もありますが、お金は大事だけどお金だけで動くほど人間は単純ではないんですね。それこそ、給料の高さだけで惹きつけようと思うと大変なお金がかかります。ところが、男性が育休を取りやすい環境に変えることで、当事者から会社に対してある種の忠誠心が芽生えます。子どもを持つというのは人生の一大事なわけで、それをないがしろにする会社なのか、尊重してくれるのかで働きたいかどうかは変わります。
そういう意味では、企業側からすると、実は男性育休はコスパのいい非金銭的報酬なのかもしれません。男性育休は組織の力を高めたり、採用を進める上で低コストで有効なツールになり得る。このコストは中長期的な投資だと考えて頂きたいです。そうすることで、多くの人が持っている潜在的な能力が発揮され、会社の成長に繋がっていくと思います。これがダイバーシティ&インクルージョンの考え方です。
ーーこれまでのお話にもありましたが、今後の日本経済を考える上で女性の活躍は非常に重要だと思います。男性育休は、男性、女性双方が今まで以上に活躍するための大きな一手になるのでしょうか。
ええ、社会全体の変化に繋がってほしいと思います。配偶者と同じ会社に勤めている人は全体からすると多くはないので、妻が育休を取ると夫の会社は妻側の会社の負担にただ乗りしていると批判されてきました。男性の育休取得が進んでいかないと、妻側の企業と夫側の企業の負担のバランスを誰も取れません。そのためにも、国が推進する必要があるし、DSTとしても科学的な知見を生み出そうとしています。
ーー行動変容を促すためには、仕掛けや仕組みを作らないと変わっていかないように思います。
そうですね、なので、最終的には人事施策に落とし込めればと思います。
実は、日本の育休制度は、国がすべき制度としては改善の余地がないほど良い評価を国際的に得ています。本当に変わらなければならないのは民間企業の働き方です。しかし、民間企業に直接経済的な規制をかけて変えようというのは経済効率を損ねることが多く、望ましくない。ある程度自発的に企業に変わってもらわないといけないので、今回我々の研究で、どうすれば社員が育休を取得しても企業パフォーマンスが落ちないのか、育休取得が促進されることでどう業務フローが変わっているのかを客観的に明らかにできれば、経営判断として自発的に取り入れる企業が増えることを期待しています。
ーー男性育休はまだまだ足りていないでしょうか。
業種や企業規模、あるいは、地方と東京など地理的な格差が非常に大きいとされています。日本全体だと取得率は17%ぐらいですが、東京はその倍以上、40数%に達しています。かなり差があるので、日本全体で見たらまだまだ当たり前になっていません。
ーーこの研究を進めていくことで、日本社会がどんな未来になるといいと思われますか。
男性育休は一つの出発点に過ぎません。とても大事ですが、それ自体はゴールではなく、男性育休を取りやすくすることで、結果的に、女性も働きやすく、活躍しやすい環境に繋がることが大切です。男性側としても、今までは仕事を100せねばならず、本当は子どもや家族と過ごす時間を重要視していたが、それがかなわなかった人もいたと思います。
男性育休を一つの契機に、より多くの方が活躍できる社会の実現に繋がればと思います。育休でビジネスパフォーマンスが犠牲になるかというと私は決してそんなことはないと思います。実際、育休で業績が下がっていないというエビデンスもデンマークから出ているので、そのような知見がより世の中に知られるようにしたいです。経済成長もするし、人々も幸せに生きていける、みんなが持っている力を発揮できる社会になればいいなと思っています。
ーー最後に、先生にとってエビデンスとは?
「全ての意思決定の出発点」です。
例えば、何も分からない暗闇の中、地図もなく、勘だけで歩いてどこかにたどり着かないといけないような状況で、エビデンスは完全な完成品の地図ではないかもしれないけど、どの方向に進むべきかくらいの示唆は出せるわけですよね。だから、エビデンスを使わないと質の高い意思決定は絶対にできません。それはビジネスでも、大学のような非営利の組織でもそうだし、個々人にとってもすごく大事ですよね。ヘルスケアアプリを私自身も使っていますが、スマートウォッチで自分についてのデータを取っています。どうやったらよく眠れるのか、ランニングでどうすればタイムを短くできるのか等、データやエビデンスを元に判断すれば、どんなトレーニングをすべきか、どんな生活をするべきか迷わないわけですよね。これは国全体にも当てはまります。子ども・子育て支援に何兆円も使うのに、エビデンスに基づかないと間違ってしまう可能性がある。国レベルの話から個人の健康管理まで、エビデンスに基づかないと質の高い意思決定はできません。
ーー山口先生、本日は貴重なお話をどうも有難うございました!